西洋鉋は、台直しが不要、刃砥ぎが簡単、調整が簡単などいいことが多いように感じますが、いいことづくめではありません。
特に価格の安い鉋になるほど調整が必要であったり、問題点が多い傾向にあります。
安くて良いもの、西洋鉋の世界に世の中そんなに甘い話はございません。
オークションで西洋鉋を販売されている方で、安い鉋をリーニールセンに近い削り心地と言っている方がいますが、あの人たちはそもそも西洋鉋を使った事がないと断言できます。
確かに台の調整、刃の交換調整、取っ手の調整など、片っ端から手を加えれば同じレベルになります。
しかし丁寧な調整無しでは、到底何万円の差は埋まりません。
大変に無責任な売り方で呆れてしまいます。
高級機ですとリーニールセンやヴェリタス、安価なものですとスタンレーやグリズリーなど、さらに最低ランクにグレートニックやシェフィールドなどありますが、特に安いものは買ったそのままだと台の精度が悪すぎて使い物になりません。
最低ランクの物は、手を出さないほうが無難でしょう。
あと、スタンレーのカラフルなブロックプレーンも絶対に買ってはいけません。
全く微調整ができず、加工精度も甚だ悪く、褒めるところが1つもありません。
海外では2000円以下で購入でき、彼らは日本で販売されている替え刃鉋の存在を知らないので、あれほどひどい商品でも売れるのです。
本当に鉄屑と言える代物ですので絶対に買ってはいけません。
リーニールセンで4万円のものがスタンレーだと1万円としてその3万円の差の3分の1は人の手による最終的な精度の調整の程度の差です。
3分の1は、持ち手や金具と刃物の品質。安いものだと刃が研げてすらいません。
残り3分の1は、フェラーリが高いのと同じ理由でしょう。
逆に言えば、安いものでも自力でしっかり調整すれば高級機とそれ程差は、ありません。
そして一度しっかり調整すれば、日本の鉋のように台の狂いに苦しめられることもほぼありません。
現に私は、ヴェリタスも持っていますが、スタンレーの安物も普通に使用していますし、全く問題ありません。
私のスタンレーの刃は、日本製の青紙と地金の複合材のものに換装してありますので、正直、ヴェリタス純正より切れますし、砥ぎやすいです。
青紙は、硬度が64〜65度くらいで適度な粘りがあり、青鋼複合材というのは、刃先にあたる部分のみが青紙でそこに柔らかめ(50度ちょっとくらい)の地金を貼り付けた作りになっています。
そう、日本の鉋と同じです。
刃先は高硬度、高靭性素材の為、よく切れる上に刃持ちも良好、更に硬いのは刃先だけですから砥ぎやすいという刃物に最適な造りです。
ヴェリタスなど西洋鉋の刃は、グレードアップ版の高い刃も全て全体がA2スチールなどの工具鋼でできています。
硬度はA2スチールで全体が60〜62度くらいになります。
全体的に硬度が高いものを砥ぐのは非常に大変です。
ただ、ヴェリタスは4倍美しく4倍気分はいいです。お値段も4倍ほどします。
日本の鉋の刃は、鋼と地金を合わせた構造で非常によくできています。
研ぎをマスターしている人が研げば、早く研げ、よく切れ、刃持ちも良く、そして日本刀のように美しい。
ですが、そこまで行くのに何年かかるのでしょうか。
鉋をあまり使わなくなった今では、プロの大工さんでもしっかり砥げている人は少ないのが現実です。
西洋鉋は、そんな砥ぎ慣れていない人の味方です。
基本的に治具に決まった長さを出してセットして砥石の上を転がして終わりです。
それで、必要十分に切れます。
とは言え、安価ラインの西洋カンナの刃の素材は、どのメーカーでも全てSK鋼材なので、かなり甘切れで、刃持ちも悪いです。(高級価格帯だとA2鋼が多いですが全鋼なので硬くて粘るので研ぐのがキツイです)
何ミクロンの厚さに削りたい!という方は、西洋鉋では無理ですので、10万円くらいの鉋と無節の檜を購入して地元の削ろう会にでも入りましょう。
節のない材を薄く削ることに何の意味があるのかは、わかりませんが・・・
ただ、国産の西洋鉋刃カルタブルー(青紙と地金の複合素材なのでかなり高品質です)に変えると、かなり和鉋に近い削り心地となりますし、鋼は刃先のみなので非常に研ぎやすいです。
刃に厚みがないので、全く同じとは行きませんが、オススメです。
和鉋では、目で刃の出を確認して、削ってみてダメなら叩いて調整、また削って、ダメなら調整・・・の繰り返しです。
慣れている人は、そのほうが直感的で早いですが、慣れるまでに数年ですかね。
西洋鉋では、いちいちひっくり返さなくてもいいです。
出るか出ないかまで刃を出してから、削るものにおいて前後させながら削れ具合を見ながら置いたまま調整します。
たぶん、初めての人でもできます。
逆にと言いますか、刃が銀色、台も銀色ですので、目で出を見ることは困難です。
和鉋で、ブラックウォルナットや、メープルや、オークなどを削ると、台が傷だらけになって擦り減ってしまいます。
和鉋の台は、大抵、カシだと思いますので、最高クラスに硬い木ですが、所詮は木ですので、削れます。
その点、西洋鉋は鋳物ですのでどんなに硬い木でもそうそう削れません。
つまり、柔らかい木だと逆に木のほうが傷になる可能性も高い訳です。
そもそも刃の性質として、西洋鉋は少しスクレーパー的な切れ方(国産の刃に変えていなければですが)なので、特に柔らかい木だとイマイチ艶がでません。
構造上、必ず押して削ります。
基本としては、テーブルにのせ、材の先端をを壁に当て、体重を横方向の力に変える感じで削っていきます。
下に押さえつける方向の力は鉋の自重でかなりのウェイトがあるので、力はあまり必要ではありません。
ただ、物によっては相当重いので和鉋のように片手で材料を持ったままシュッと削るような使い方は難しいです。
基本、高級になるほど重さが比例して重くなるという謎の傾向があります。
リーニールセンの銅製の物などは、お値段も半端ではないですが、重さもNO.4で2キロ超えてたと記憶しています。
私は、これには批判的でして重過ぎる鉋は削る(押す)時はいいですが、戻る時に大変な為、ほどほどにしてほしいと思っています。
その点、安い西洋鉋は、比較的軽めでNO.4で1.5キロほどですので、皮肉な事に場合によっては逆に使いやすいという状況になることがあります。